プロローグ‐聖夜の訪れ

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いつのことだったのだろうか。 私の記憶が消えてしまったのは。   記憶喪失……と称していいものなのかは分からないけれど、私の記憶、その一部は、無い。   具体的には、小学校高学年のころの記憶が全て、消えてしまっている。   中学、高校に入った時はかなり苦労したけど、今ではもう、溶け込めている。 久々に会った小学生のころの友人に「はじめまして」と言ってしまった時は、かなり焦ったけど……。   そして、気がつくと私はその「慣れ」に甘えていた。 私はいつしか、欠落した部分の記憶を取り戻すための努力を、しなくなっていた。 必要がなくなったからだ。 今の私にとって、無くなってしまった過去などどうでもいい。 勉強や対人関係で気苦労することは、まだあるかもしれないけれど、それはなんとか対応できる。 だから、あの頃の私に記憶に対する執着心は、殆どなかった。   なのに……、それなのに……   高校に入ってから二年間、毎年この時期になると、妙なざわつきを覚える。   今年で三年目。季節は再びその時期を迎える。   冬至に近付き、夜長が続く、この季節。   私の胸をざわつかせる、聖夜が近付いてきた……。
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