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「沙莉」
「ん?」
抱き合ったまま話を続ける。
「小学生のころの約束なんだけど、覚えてるか?」
「……結婚のこと?」
彼は「ああ……まあ」と歯切れの悪い返事を返した。
彼の腕の力が緩む、彼は私の肩を持ち、離れる。
そして、優しく唇を重ねた。
彼はまたゆっくり離れ、話を再開する。
「……小学校六年の今日、俺は沙莉に告白した。『結婚出来る年齢になったら、クリスマスに結婚してください!』ってな」
「だけど、記憶を失った……」
「……そうだ。あの日、近くの本屋じゃなくて商店街に行ったのは、大事な物を買うためだった」
「大事な物……?」
彼はポケットの中を探り、一つの小さい箱を取り出す。
「……これを買った日も、星が綺麗だったっけな。あの日以来、ずっと手放したことはなかった物だ」
そう言い、彼はそれを私に差し出す。
「受け取ってくれ、沙莉」
「…………」
私にはもうその中身が分かっていた。
小学校の卒業文集に書いていた内容から、簡単に推測できた。
つまり、これを受け取ることは、同時に深い意味もある。
彼もそれを分かった上で言っているのだろう、頭を下げっ放しだ。
ふと、夜空を見上げる。
星屑たちが、私を祝福しているようだった。
どうしても、隠してしまった想いは思い出せない。
だけど、それならこれから作っていけばいい、そう星屑たちに言われているような気がして、笑ってしまう。
「……うん。嬉しい」
私はその箱を受け取り、驚いた彼の表情を見る間もなく、口を塞いだ。
「……沙莉」
私が離れると、彼は座り込んで呟いた。
「……結婚、して欲しい」
「…………」
そう言われるのは分かっていたので、もう答えは決めていた。
だけど、焦らしてみる。
「…………ダメ、か?」
「ううん、私も、隼のこと大好き。それは記憶云々とかじゃなくて、今の隼が、私は、大好きだから」
そう言って、彼の腕を引いて無理矢理立たせ、抱き締める。
「結婚しよう、隼」
冷たい風が、頬をつたう。
寒空の中、二人は契りを交わす。
星屑が彼らを祝福し、雪が彼らを褒めたたえる。
そうしてまた、二人の中には、大切な思い出が刻まれていく。
忘れたくない、想いが。
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