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わたしはそれをだまって見送ります。
それから、机の中から教科書を取り出そうとして、思わずあれっと声をあげてしまいました。
きょろきょろと周りを見回して、教室にほとんど生徒が残っていないことを確認すると、わたしはもう一度机の中をのぞきこみました。
そこにはそっけない白い封筒が一枚、わたしの知らない間に入っていました。
おそるおそる取り出してみると、ていねいな、でもあまりうまくない字で『山口ゆき様』と書かれています。
「………これって」
ひっくり返してみると、そこには『坂井優斗』という名前がありました。
表の名前がわたしの名前であることを再び確認して、
「もしかして、ラブレター?」
いつの間にか誰もいなくなった教室で、ぽつりと呟きます。
いまどき、ラブレターなんて書く人がいたんだ、とわたしは驚きました。しかも、机に入れておくなんて。
笑っちゃう、と言いながら、わたしは笑いませんでした。
坂井優斗がどういう男の子だったか、わたしは覚えていませんでしたし、わたしに誰かがラブレターを送るなんて冗談としか思えません。
わたしはその封筒をあけずに、元あったように机の中に押し込むと、教科書だけをかばんに入れて教室を出ました。
ゆううつなくもり空の下、うかれきった街の中、わたしはひとりで家まで歩いて帰りました。
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