七年ごしの願いごと

5/30
前へ
/30ページ
次へ
 わたしはそれをだまって見送ります。  それから、机の中から教科書を取り出そうとして、思わずあれっと声をあげてしまいました。  きょろきょろと周りを見回して、教室にほとんど生徒が残っていないことを確認すると、わたしはもう一度机の中をのぞきこみました。  そこにはそっけない白い封筒が一枚、わたしの知らない間に入っていました。  おそるおそる取り出してみると、ていねいな、でもあまりうまくない字で『山口ゆき様』と書かれています。 「………これって」  ひっくり返してみると、そこには『坂井優斗』という名前がありました。  表の名前がわたしの名前であることを再び確認して、 「もしかして、ラブレター?」  いつの間にか誰もいなくなった教室で、ぽつりと呟きます。  いまどき、ラブレターなんて書く人がいたんだ、とわたしは驚きました。しかも、机に入れておくなんて。  笑っちゃう、と言いながら、わたしは笑いませんでした。  坂井優斗がどういう男の子だったか、わたしは覚えていませんでしたし、わたしに誰かがラブレターを送るなんて冗談としか思えません。  わたしはその封筒をあけずに、元あったように机の中に押し込むと、教科書だけをかばんに入れて教室を出ました。  ゆううつなくもり空の下、うかれきった街の中、わたしはひとりで家まで歩いて帰りました。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加