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――なんで私はここにいるのだろう。
クモの巣の張った薄暗い廃墟。埃っぽい空気。
壊れた窓から見えたのは、どんよりと暗い空。今にも泣きそう。
ただそれを、客観視してた。叫び声が、聞こえるまでは。
思わず条件反射で、なんでか立ち上がって、声がした方へ走りだす。
――なんで私はあそこに座っていたのだろう。
走りながら、頭の隅で考える。
また、悲鳴が聞こえた。
――なんで私は走っているのだろう。
悲鳴の主を、助けたいから?こんなにも、身軽なのに。
ただひたすらに走って、激しく抵抗する声と響く物音から立ち止まり、古びたドアノブを回す。
がちゃがちゃと響いて開きもしない。その間も聞こえてくる声。悲鳴。
幼い少女の、悲鳴。
とてつもなくいらついて、扉を蹴飛ばす。何度も力任せに蹴飛ばした。
ほとんど無心だった。
そうしてるうちにもともと古いせいか蝶番が外れて、めきめきと音をたてて扉が中へ倒れた。
脇目も振らず飛び込んで、埃立つ中に浮かび上がる人影を見る。
大きな、自分よりも大きい体格の男と、それに腕を掴まれた、この雰囲気にそぐわない白いレースをふんだんに使われた可愛らしいワンピースを着た少女。
涙をこぼして赤くなった瞳で、飛び込んできた私を見た。
男の方といえば、全身黒く奇妙な形をしていた。正直言えば気持ち悪い。猫背で、筋肉の付いた腕。それに比べて奇妙に細い腰。
変だ。この状況。
男は振り返らず、ただその少女の腕を掴んでどこかに連れて行こうとしていた。そのたびに少女がもがいて暴れる。
「たすけてっ……!」
相当泣いたのか、嗄れかけて悲痛な叫び。よく見れば、白いワンピースも所々黒ずんでいた。
なんで、私はここにいる?
なんで、この少女はここにいる?
なんのために?
なんの目的で?
そんなこと、どうでもいい。
そう思った瞬間体が熱くなって、気付けば男を殴り倒してその少女の手をとって走り出していた。
――私は、なんのために、走り出した――?
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