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暗い空。服の隙間をぬって体を震わせる風。吐き出す息は白く、すぐに消える。
今日は世に言うクリスマスというもので。あちらこちら、手を繋ぎ合った恋人たちがそれぞれの速度で過ぎて行く。ただそれを、ぼんやりと見ていた。
「陽菜ーぁ!」
唐突に私の名前を呼ぶ、大きな声。振り返れば、月島が大きく片手を振ってこっちに向かって走ってきていた。
焦げ茶の、無造作にハネた髪。男にしては可愛らしいアーモンドアイ。キャラメル色のコートを着た月島は、まるで大きな犬のようだと思った。
「月島」
私が呟くように言うと、息を切らしてそばまで寄ってきた月島は唇を綻ばせた。
月島はいつもニコニコしてる。それこそ、まわりの胸が温かくなるような優しくて暖かなひだまりのよう。
「待った?」
白い息がゆったりとくゆる。私は月島の言葉にいや、と返した。
「えー」
なにが不服だったのか、月島は子供のように頬を膨らませた。
「!」
ぎゅ、といきなり私の手を握りしめた。大きく、寒い空気とは正反対な月島の温かい手。
「手ぇ冷たいよ?」
「……」
本当は、少しだけ早く来てた。
ぼそぼそと私は呟いて、俯いた。顔が熱い気がする。
月島は相変わらず私の手を握りしめたままで。少し、気まずいと思った。けれど、月島はそんなこと思わなかったみたいで。
「陽菜かーわいぃ」
そう歌を歌うように、楽しそうに言って私を抱きしめた。
温かい。
「……ぁ」
「え?」
不意に、声がもれた。月島も、反応して声を出す。
朝からどんより曇り空。少しだけ期待した。こぼれたように、白い点。
「……あ、雪」
月島が、気付いたように声を上げた。ひらひら、空から白い雪が降ってくる。段々増えてくる。
「雪、降ったね陽菜」
私を抱きしめたまま、月島が囁く。
「……うん」
私は小さく頷いて、月島の胸に顔を埋めた。キャラメル色が視界いっぱいに広がる。
ゆっくり瞳を閉じて、息を吸う。肺の中、巡って体。月島の全てにひどく安心する。冷えた体と心が、ほわりと温かくなる。
――……月島。
私、月島と雪が見られて嬉しい。クリスマス、サンタよりプレゼントより、月島と一緒なのが、嬉しい。
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