[夢幻]

2/3
前へ
/41ページ
次へ
 車の中、秀明はぐっすりと眠っていた。だが怒ったり苦しがったりでも笑ったりといそがしかった。 「何の夢をみてるんだろうな」 「そうですね」 木崎と微笑ましくその姿を見た。 「良い夢だといいな」  その時、秀明が見ていた夢はというと…  昔の夢を見ていた。 それは、昔に家で一度だけやったバースデイパーティー。家族みんなで俺達の誕生日を祝った時の思い出だった。  家の中では皆がバタバタして準備をしている。そして何故か双子の兄だった秀が病院服で、他の人達はみんな、変てこりんな格好をしている。 だが始めはとても楽しく過ごしていたんだ。  しかし、気づけば俺は裸足で外にいて雪の上、木に寄りかかって膝を抱えている。そしてグズグズと泣いているんだ。 そこに兄貴がやって来て 「秀明…帰るぞ!」 それだけ言って、俺をおぶって家まで帰ってくれた。…そんな夢だった。  心地よい揺れが止まった。信号で車が止まったからだ。  俺はゆっくりと目を開けたが、さっきまで居たカフェではない事に驚いていた。すると… 「目が覚めたかい?」 「あなたはさっきの」 「あまりに気持ちよさそうに眠っていたから。まぁ、もう起こそうと思ってたんだけどな。家はこの辺で良いのか?」 「えっ?」 俺は窓の外を見ると、いつも通る家への景色が映っていた。 「なんで…」 「違うのか?」 「いえ、あってます」 「そうか」 「えっ、でもなんで俺の家の方向が…」 「ちょっとな。…それにこの辺で佐波って言ったらあの家しか思い浮かばない」 「そうなんですか?でも、もうここでいいです」 「なぜ」 「家には…」 「帰りたくない…か」 「はい」 「まぁ、そうは言わず…もう着く。だから今日は帰りなさい」 「だけど」 「君にも確かに言い分はある。でも…考え直す事もあるんじゃないのか?」 「それはそうだけど…」 すると、家に着き車が止まった。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加