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私は決心した
いやっっ! ストレートに「佐藤さん、レタス落としましたよね?」はマズイ気がした。……
「あら~佐藤さんこんにちわ~」
「あっ、…吉川さん、…」「佐藤さんまだ買い物途中ね、まだ「レタス」しかないから」
佐藤さんは右肩を僅かに上方に動かした。恐らくレタスを床に落とした事、そしてそのレタスを元の配置に戻したことを相当気にしているのだろう。
「吉川さん、これ「キキャベツ」です。」
「佐藤さん、私「レタス」買いにきたのよ。」
私はそう言って佐藤さんが落としたレタスをわざと自身の買い物かごに放り込んだ。
即座に佐藤さんは狼狽の色を見せた。
しかし私に罪を告白しなかった。
いや、もしかしたら佐藤さんはマルエツの清掃員に絶大な信頼を寄せているのかもしれない。もしくは元々は土にまみれていたものだから床に落としたくらい大丈夫だと思っているのだろうか。
とにかく私のなかで様々な思いがほとばしった。
佐藤さんは言った。
「そろそろ会計済ませようかしら。」
私には全てわかるのだよ、佐藤さんっっっっ!
これは「お会計」という行為を遥かに凌駕した犯罪現場からの逃走だっ!
私も会計を済まそう言った。
店の自動ドアが音もなく開く。
恐らく佐藤さんには檻の扉が轟音をたてて開き。空に広がる青空はお会計という名の「懲役」を済ませた証とでも思っているのだろう。その容貌は「監獄内」に居たときとは異なり、晴れ晴れしている。既に「元犯罪者」の顔だ。
佐藤さんは口を開いた。
「私…吉川さんに言わなければならないことが…」
急に太陽の下に厚さをもった雲が現れた。
「吉川さんが購入したレタス…」
「床に落とした…でしょ?」
「なんで知ってるの?しかもそれを知っていながらレタスを購入したのね?」
自動ドアの前で話をしているのでドアは開きっぱなしになっている。
「罪って解決するのが難しいわ、佐藤さん。」
「吉川さん、本当にご免なさい」
「佐藤さん、本当にご免なさい」
「?っ!」
佐藤さんは最初その言葉の意味が分からなかった、
しかし吉川さんはひたすらに佐藤さんの持つ「キャベツ」を見つめていた。佐藤さんはひたすらに吉川さんの持つ「レタス」を見つめていた。
二人は微笑みながら店を離れた。
自動ドアが音もなく閉まる。
その自動ドアに鏡のように写し出される2つの袋。
そして袋から飛び出る2つのテープ…
雲は太陽の下を通りすぎた。
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