サヨナラの日に

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『柚紀!お前っ…何してんだよ!』 慌てて着替えて表に飛び出す。 柚紀は俺をみると、 『よぅ』 と、いつもと全く変わらない挨拶をいつもと全く変わらない顔でしてきた。 『よぅ。じゃねーよ!何やってんだよ!?引っ越しは!?』 『裕太。近所迷惑』 柚紀は唇に人差し指をあてニヤリと笑った。 悔しかったが、もっともなので、声を落とす。 『…今日、朝一の飛行機じゃなかったのかよ?』 『ああ、断った。』 『は!?』 『私、飛行機って苦手なの。というわけで。電車で行く事にしました☆』 『しました☆…ってお前なぁ…。ん?じゃあおじさんたちは?』 『お父さんとお母さんは予定通り、飛行機だよ。…ところでさ…お願いがあるんだけど…☆』 柚紀が、良い笑顔になる。 この笑顔は何かろくでもない頼み事をする時で、大抵俺は損な役をやらされるときだ。 『断る』 『まだ何も言ってないでしょー!』 当然だが怒られた。 『…なんだよ。』 仕方なく聞いてみる 『…駅まで乗せてって』 『…』 当たり前だがバイクも車も免許を持っていない。 その上、この街は山を切り崩して、造っているため、やたらと上り坂が多く、しかもご丁寧に駅はその一番上にあるのだった。 黙っている俺を見て慌てたように 『ほら、荷物重いしさー、ね、お願いっ!』 顔の前で手を合わせる。 柚紀のお願いポーズ。 柚紀が頼み事をする時はいつもこれだ。 『…』 それでも俺が黙っていると 『…裕太のアドレスとケー番…着拒否にしようかなー…』 『…わかったよ』 まぁこれもいつものやりとり。 これで俺が折れて、お願いを聞く羽目になる。 『サンキュ☆さすが裕太!』 無邪気な笑顔を見せる柚紀に俺の心がズキリと痛んだ。 ガレージから、ボロいママチャリを引っ張り出す。もっときれいな自転車はあるのだが、二人乗り出来るのはこれしかない。 『行くぞ』 一昨日一緒に買いに行ったデカい鞄を前カゴに乗せ、柚紀に手招きする 柚紀は頷いて、荷台に座り、少し迷ったような顔をした。 『どうした?ちゃんと肩持ってろよ』 『…うん』 そう言って、柚紀は俺の腰に手を回した。 いつもなら絶対しない柚紀の行動に俺は少し驚いたが、何も言わなかった。 『行くぞ』 『うん』 …キィィ… 錆びた車輪の悲鳴を聞いて、二人を運ぶ自転車はゆっくりと明け方の街へ走り出した。
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