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(こいつ…体温高いなぁ)
走り出してからまもなく気付いたこと。
いつも持つのは肩だったから知らなかったが、俺に寄りかかった柚紀からしっかりした体温が背中に伝わってくる。
(そういや、体温が分かるくらいくっついたのは久しぶりだよな…)
背中の柚紀の確かな温もりが少し嬉しかった。
それから俺らは他愛もない話をしながら、駅へ向かっていた。学校の事や、家族の事、好きな芸能人の事など、普段と何も変わらない、いつもの会話。
ただ一つ違ったのは俺も柚紀も、示し合わせたように引っ越しや転校なんかの話は一切しなかった。
まるで、未来から目を逸らすように。
まるで、未来などいらないという風に。
俺らは話しながら、馬鹿みたいに笑いあった。
これがいつまでも続けばいい。
俺は半分本気でそう思っていた。
駅に行く途中に、治国坂という坂がある。
これは地元住民から、地獄坂、もしくは遅刻坂と呼ばれている、いわゆる心臓破りの坂だった。
『よし!いけー☆』
自転車の後ろに乗っているだけのやつが何を言うか。
そう思いながらも、俺は足をつかないようにペダルを踏む
『…っうるさい、坂道くらいっ…降りろよ』
俺は必死でペダルを踏みながら坂を登っていく。足をついてはいけないなんてルールがあるわけじゃないけど、足をついたら、そこで現実にかえってしまいそうで嫌だった。
『やだ☆後でなにか奢ってやるからさっ☆…ほらほらっもうちょっと!後少しだよ!』
柚紀の楽しそうな声が静かな街に響いては消えていく。
俺は、更にスピードをあげて坂を上っていった。
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