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『ねぇ…静かだね』
少しの沈黙の後、不意に呟くような声で柚紀が言った
『ああ…っ。そう…だなっ…』
ペダルを踏みながら短く答える。
『なんかさ、今世界中に二人だけみたいだね?』
呟くように放った言葉に俺は一瞬返答に迷い、それでも答えようと口を開いた
『……っ』
その瞬間、俺は言葉を飲み込んだ。
街を見下ろす坂の上、そこから見える朝焼けがあまりに…キレイすぎて
(これじゃあ…まるでっ…まるで)
柚紀がこの街からいなくなることを祝福してるみたいじゃないか
そう思った瞬間、俺は自分でも気付かないまま、涙を流していた。
…クスッ
俺も柚紀も一言も交わさず朝焼けを見ていると不意に柚紀が笑った。
それは、とても楽しそうな、嬉しそうな笑いだった。
俺の気持ちと正反対な笑いに、俺は柚紀が今どんな顔をしているのかが唐突に気になった。
《柚紀は俺と会えなくなることをなんとも思ってないのか?》
振り返ってそう言いたい気持ちを無理矢理押しつぶす。
泣いている顔だけは見せたくなかった。
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