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『切符買ってくる』
駅に着くとそれだけ言って柚紀は俺に鞄を預け、切符売場へと走っていく。
目で追うと券売機の中でも一番端の一番高い切符を買っているようだった。
(あの切符で一体どこまで行けるんだろうな)
俺には見当もつかない。
その事がこれからの柚紀との距離を物語っていた。
『お待たせ』
『おう』
荷物を柚紀に渡す。
『…じゃあ…その…元気で。』
他に言葉が見つからず、ありきたりな事を言った俺の前に柚紀は手を差し出す。
手の中には一枚の、あの券売機では一番安い、入場券が握られていた。
『なんか奢るって言ったでしょ?』
黙った俺に向かって手を差し出したまま言う
『最後まで見送ってよ。…ね?』
顔は普段と変わらないのに、声にはどこか懇願するような響きがあった
『…安いんだよ』
精一杯、普通を装って入場券を受け取る。
そんな俺に安心したのか柚紀は普段の調子を取り戻し
『文句言わない!奢ってやっただけありがたいとおもえっ☆』
とか言いながら改札の方へと走っていった。
『…馬鹿。こんなもん奢って貰ってもうれしくねぇよ…』
柚紀に聞こえないように呟いて、俺はその入場券を財布の奥深くに大事にしまった。
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