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祐太の家は古いアパートの一室だった。
あまり裕福ではなさそうだ。
離婚したとか言っていたから、女手一つで子供を養っていくのは大変なのだろう。
玄関の脇に子供用の自転車が置いてある。祐太のだ。
表札には祐太の名前と共に、武蔵野早苗とあった。
祐太の母親だ。
俺は呼鈴を鳴らす。
「…はい」
扉が開いて女性が出てきた。
やつれて生気のない顔をしているが、なかなかの美人だ。
その目は、俺を思いっきり怪しい人物として見ていた。
無理もない。
「武蔵野祐太君のお母さんですね?」
「そうですけど…何か?」
さて…ここからが問題だ。
「実は…助けてほしいのです。祐太君の幽霊に付きまとわれてまして…」
それを聞いた武蔵野早苗の表情が強ばる。
「悪質な冗談はやめてください!」
乱暴に閉められる扉。
やっぱ、そうなるか…。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「信じてもらえないのは分かります。とにかく話だけでも聞いてもらえませんか?」
無言…。
「祐太はこの世に縛られて成仏できずにいます。力を貸していただけませんか?」
無言…。
「貴女にも会いたがっています。祐太は貴女に嫌われてると思ってるようですが、そうなんですか?」
扉が少しだけ開いた。
「祐太が言ったんですか?」
「はい。祐太はそう思っているみたいです。『ママはいつも家にいない』と。『一緒にご飯を食べたことがない。いつも一人だった』と」
「そんな…」
「分かります。女手一つで子供を育てるのがどんなに大変な事か。でも子供は分からない」
少しして、扉が開いた。
「…どうぞ」
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