ゼロからのスタート

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どのくらい歩いただろうか? 火村の顔に飛んできたボールの勢いの割には、練習場がかなり遠くにあるらしくまだ着かない。 いつの間にか周りは木ばかりになり、合格発表の日を思い出させた。 この学校はお金持ちなのだろう。 無駄に広い。 「まだ着かないんですか?」 速水が聞いた。 如月は、 「もうすぐだよ」 と言って笑った。 火村はそろそろ飽きてきたのか、小指を使って耳の掃除をしている。 「ほら、着いた」 そう言って、如月が前を指差した。 火村と速水の足が、自然と止まる。 そして二人は、クルリッと背を向けた。 「帰ろう、火村」 「お、おぅ…」 それもそのはず、如月が指差した場所は練習場所と言うには狭く、フェンスもサビだらけだったからだ。 「ちょっ、待ってよ!」 如月が二人の制服の裾を掴んだ。 しかし、二人は頑張って前に進もうとする。 「ローカルなスポーツの部活は……ぅぐぐ……こうだからイヤだ…」 「ぬぬぬぅ……速水が見学するって……ぅぐぐ……言ったんだろ……って、如月さん無駄に力強いんだけど…?」 「そりゃ、僕……ぬぅ……ピッチャーだし……うりゃあ!」 如月が後ろに手を引くと、火村たちはいとも簡単に背中から倒れてしまった。 如月は強引にも二人の襟を掴み、ズルズルと練習場所に引きずって行く。 「おい、無理矢理かよ!?」 速水が叫ぶが、如月の握力は凄まじいもので進むスピードはどんどん速くなっていく。 「七海(ナナミ)~!土肥(ツチゴエ)~!新入部員~!」 如月が練習場所にいる、部員らしき人物に向かって声を張り上げた。 「おい!新入部員ってなんだよ!?俺たちは見学……」 「気にしない。気にしない」 火村が喚くも、如月に押さえ込まれる。 そこに、練習場所から七海と土肥がやって来た。 「ようこそ、キックベースボール部へ!君ら、何て名前? 俺?俺は七海。よろしくな!よろしくな!!」 七海は早口で、自分勝手に話を進めていった。 「んで、こっちにいるのが土肥。な?土肥…わっ!マッチョ!凄いね、これ。土肥の筋肉凄いね、これ」 七海は一人で騒いでいる。 火村たちからみた第一印象は、“ただうるさい人”だった。
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