ゼロからのスタート

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「君達もやって見るか?」 しばらくして、土肥が声を掛けてきた。 火村と速水は顔を見合わせ、頷いた。 すると、如月がどこからかスパイクと手袋を持ってきた。 火村と速水に手渡す。 2人は渡された物を着けると、グラウンドに駆け出した。 七海からボールを受け取り、軽くキャッチボールをしてみる。 やはり、野球とは感覚が違った。 まず、当然だが片手では捕球できない。 それに、弾力があり、しっかり捕らないと跳ね返って捕りこぼしてしまうのだ。 次に打席に立ってみる。 先程、自分がピッチャーだと言っていた通り、マウンドには如月が立った。 アンダースローのようなフォームで、右手でボールを放る。 打席には火村が立ったが、これがまた如月の球が速いこと…。 土肥の話では、ピッチャーからキャッチャーまでの間に3バウンド以上しなくてはならないらしいのだが、如月はボールに回転をかけているのかバウンドする度に速くなっているのだ。 卓球で言う“ドライブ”。 前進回転をかける投げ方だ。 しかし、火村も野球をやっていただけに目は良い。 タイミングを見計らって、右足を振るった。 当たったのは爪先でファールになったが、意外に当たるもんだな、と火村は思った。 次に速水も打席に立ったが、これがジャストミート。 センター前ヒットのような当たりを見せた。 野球で打てない速水は、キックベースで力を発揮したのだった。 「2人とも、初めてで僕の球に当てるなんて凄いよ!もうこれは、即入部するしかないって感じだよね!」 如月が目をキラキラさせて、火村たちに近付く。 火村は如月の頭を抑え、近付くのを阻止した。 傍から見ると、どちらが年上か分からない。 「で、どうする?野球ができない以上、この鬱憤(うっぷん)を何かやって晴らしたくないか?」 速水は如月の手から用紙を取り、火村の前でひらひらとさせた。 「実は俺……キックベースも悪くないかなって、少し思いかけてる…」 火村が照れくさそうに言う。 速水はふっ…と笑うと、用紙を火村に渡した。 「「じゃ、そういう事なんで」」 そう言って2人は、名前の書かれた入部届けを如月の目の前に叩き付けた。
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