初めての大会

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「春の大会?」 「あぁ。春の大会」 廊下の窓際で、外を見ながら火村と速水が話している。 今は昼休みだからか、廊下を行き来する生徒が多い。 「それって、初めての大会って事?」 火村は目を輝かせ、速水と向き合った。 「そ。土肥先輩が、すでにエントリーを済ませてるらしい」 「あ。土肥先輩の仕事なんだ、そういうの」 意外と言えば意外だし、そうだと言われればそうだ。 キャプテンである如月は、そういう仕事はしないのだろうか? それ以前に、マネージャーである奈央も、顧問である先生も、監督も、そういう仕事はそういう人たちの仕事ではないのか? というより、顧問や監督を見た事ないが大丈夫なのだろうか? 火村の何気ない一言が、様々な疑問を生み出した。 「とにかく、その大会に向けて練習量を増やすらしい。覚悟しとけってさ」 「え。土肥先輩がそんなことを…?」 「いや。練習量を増やす、ってのは如月先輩が言ってた」 キックベースボール部員が言ってはいけないが、如月はそんなにキックベースボールが好きなのだろうか。 大体、キックベースボールの大会など、参加者はどのくらいいるのだろうか。 春の大会ということは、夏の大会とかあって、春の大会の成績とかが関係するのだろうか。 顧問がいないが、大丈夫なのか。 監督がいないが、大丈夫なのか。 数々の疑問が脳によぎり、次第に不安になってくる。 特に最後の2つは重要だ。 どんな部活にしても、最低でも部活の責任者である“顧問”がいる必要がある。 しかし、この部活はどうだろうか。 思い返してみても、土肥が事務的な事をしている姿しか出てこない。 練習風景を見ているのはマネージャーである奈央だけだし、予算の事や今回の大会のエントリーにしたってそうだ。 顧問、監督、一切出てこない。 これはいよいよ気になるゾ。 そう思った火村は、練習時間に土肥に聞いてみた。 こういう時には、やはり土肥だ。 一番まともな回答がもらえそうだからである。 「顧問や監督?」 「はい。いないのかな、と思って」 「いや…。いるにはいるんだけど……」 あ、いるんだ、と火村は少し意外そうな顔をした。 そりゃいるだろう。
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