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火村たちに気付いた。
如月は駆け足で火村たちに近寄ると、火村に思い切り抱き付いた。
「わぁあ!なんスか、如月先輩?」
「火村君。速水君たちに混じって、素蹴り10000回」
「桁、一桁間違ってませんか…?」
如月は指折りして、桁を数える。
「間違ってないよ?」
小さな子供のように、無邪気な顔で笑った。
火村の背中を押して、「行ってこ~い!」と言った。
火村はしかたない、といったように歩きだす。
ベンチでは奈央が座ってファッション雑誌を読んでいて、それを見た火村は釈然としない気持ちになった。
「気楽なこって」
目の前に落ちていた小石を蹴った。
小石はきれいな軌跡を描き、速水の頭に当たった。
☆
「さあ、来たよ」
全員がきれいに整列し、如月だけが前に一人向かい合うように立っている。
普段キャプテンらしい事をほとんどしていないが、こういう時ばかりはそれらしく見えるものだ。
「大会がね、明日なんだよ」
そう言う如月は、とても嬉しそうである。
……土肥がある一言を言うまでは。
それは如月の話が終わり、如月が土肥に「じゃ、土肥からもなんか一言」とバトンタッチした時だった。
土肥が前に立ち、キャプテンよりもキャプテンらしい事を言う。
「一年生は初めての大会だ。初戦は去年の優勝校だけど、頑張って勝とう!」
辺りがし~ん、とする。
土肥も少し戸惑った。
「し、初戦って、去年の優勝校なんですか…?」
速水が今聞いた、と言わんばかりの顔で声を出す。
土肥はその様子を見て、隣の如月を見た。
相手校の情報は皆に伝えるように、と如月に言っておいたはずだ。
しかし、どうせ如月の事だ。
「言うの忘れてた」とか言うんだろうな。
そんな予想を立てつつ、如月の様子をうかがう。
うつむいて、グーにした手をフルフルと震わせていた。
土肥は如月の顔を、下から覗き込んでみた。
きっと、情報伝達の不備を反省しているのだろう。
「……って、なんでお前まで今聞いた、みたいな顔してるんだ」
「今聞いた!今聞いたよ、土肥ぇ!」
反省などしていなかった。
むしろ、本人も知らなかった。
そりゃあ、知らなかったんだから、皆に伝えるのは無理だったね。
しょうがない、しょうがない。
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