初めての大会

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それは時間を逆上り、トーナメントの組み合わせ抽選会での事である。        ☆ 広い会館で行われる、組み合わせ抽選会。 その直前まで、如月は無邪気な子供のように動き回っていた。 抽選会が始まると、さすがの如月も大人しくなってイスに座っていた。 舞台には土肥が上がる。 各校が順番にクジを引いていき、トーナメント表の番号だけ書かれた空欄に校名が書き込まれていく。 《春雨(ハルサメ)高校、27番》 クジを引いた高校の名前が言われ、空欄のひとつがその高校の名前で埋まる。 土肥は春雨高校とは当たりたくないな、と思っていた。 そして、自分の番になりクジを引く。 本当はこの時に感じていたのだ。 春雨高校と当たるのではないか、と。 実は土肥は、昔から恐ろしいほどにクジ運が悪い。 その証拠のひとつに、小・中・高とクジ引きで負けてクラス委員長をやらされ続けた、というのがある。 もちろん、今現在も委員長だ。 ほかにもある。 おみくじを引けば凶か大凶しか引かないし、コンビニのお客様御礼のクジでさえも当たらないのだ。 これはもう、間違いないだろう。 《青陵高校、28番》 予想通りの結果となった。 春雨高校が“27”、青陵高校が“28”という事は、隣り同士で初戦に当たるという事だ。 これはもう、うだうだ言っても仕方が無い。 土肥は席に戻ると、隣りの如月に小さな声で言った。 「1回戦の相手、春雨高校だよ。ほら、去年の優勝校」 如月から返事は無く、代わりにコクリと頷いた。 それを確認して、土肥は続ける。 「とにかく、皆にちゃんと情報を伝えてくれよ?」 如月は再び、コクリと頷く。 返事は無い。 土肥は不審に思い、「聞いてる?」と聞いた。 如月は三度(みたび)頷いた。 土肥は安心して、他の組み合わせが決まっていくのを見る。 気が付けばトーナメント表の空欄は少なくなっており、組み合わせ抽選会も終わりが近づいていた。 しかし、この時の土肥は甘かった。 如月をよく確認すれば、情報伝達の不備など起こらなかったはずである。 そう。この時、如月は寝ていたのだ。 土肥の話の節目節目に、タイミング良く頭が下がっていた。
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