初めての大会

8/10
前へ
/62ページ
次へ
所変わって、バスの中。 学校所有のバスで、試合会場に向かっていた。 「まったく。試合の日に来ないなんて、火村くんってそんなに無責任だったんだ」 如月が憤慨するその横で、土肥も少なからず怒りを見せていた。 怒っているのはその2人で、あとの皆はどうでもいいという様子。 速水以外の皆は、狭い場所でババ抜きをしていた。 とても、これから試合をしにいくような雰囲気ではない。 速水だけが唯一、音楽を聞いて精神統一をしている。 そんな和やかなムード(一部除く)のバスは、試合会場へと走って行った。        ☆ 所戻って、学校。 校門前。 火村はバカなので、「なんだ、まだ誰も来てないじゃん。俺一番じゃん。はっはっはー」と、自転車にまたがったまま高笑いを決めていた。 携帯電話を開くと、皆からの着信履歴が表示された。 そういえば、自転車に乗っていた時に、ポケットの中の携帯電話が振動していた気がする。 8時20分の電話。 留守電が入っているのに気付いた。 《ピーッ…火村くん、もうギリギリだから行くよ?来れるんだったら、直接、球場に来てね…ピーッ》 火村の高笑いが止んだ瞬間だった。 これはもう、あれだ。諦めるしか…。 「……って、違う違う違う違う!自転車こげ、俺!」 悪魔の囁きに打ち勝った火村は、学校から試合会場を目指して走り出した。 途中、警察官に呼び止められそうになった。 「まぁた、お前かぁぁあぁあ!!」と言われたので、さっき呼び止めようとしていた警察官だろう。 止まってないから、“止められそうになった”だ。 曲がり角を右へ、警察官を振り切る。 果たして、自転車で間に合うのだろうか。 とにかく火村は、自転車をこぎ続けるのだった。        ☆ 自転車を適当な場所に止めると、火村は試合会場である球場に駆け込んだ。 走りながら携帯電話のディスプレイを見ると、8時52分だった。 火村は、我ながら凄い、と思っていた。 ユニホームは、既に下に着込んである。 お陰で、もこもこしていて落ち着かない。 上を脱いで、脱いだ衣類をカバンへ押し込むと、ロッカールームのドアを勢いよく開けた。 誰もいない。 急いで残った下も脱いで、カバンと一緒にロッカーに詰め込んだ。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加