初めての大会

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そして、ベンチの方へ走った。 「あ~!火村くん!」 如月の声が聞こえた。 丁度、ベンチから出て来た如月と鉢合わせたのだ。 「あ。如月先輩、おはようッス」 バキィッ!! 殴られた。 そして如月は、サラサラと持っていた紙に何かを書き始めた。 「もう!メンバー表提出する前で良かったよ!書き直す時間ないから、火村くんは8番サードね?」 「ウッス!」 如月はその紙を持って、奥に消えていく。 おそらく手に持っていたのはメンバー表で、これからそれを相手と交換しに行くところだったのだろうか。 危ないところだった。 如月を見送ってベンチに入ると、いきなり速水にも殴られた。 「遅い」 声が低く、とても恐い。 火村は涙が出てきた。 「なんで俺、朝から殴られてるんだろう。あ、遅刻したからか」 独り言のように言い、皆に「おはよう」と言う。 メンバー表を交換し終えた如月が、戻ってきた。 なぜか、火村はまた如月に殴られた。 遅刻した事を、まだ怒っているらしい。 なんだいなんだい、間に合ったんだから良いじゃないか。 火村はそう思ったが、そういう問題でもないと思う。 「土肥。相手の打順だよ」 そう言って、如月は土肥に相手のメンバー表を渡した。 こちらのメンバー表と違って、記入欄に空きは無い。 「し、初戦でエースを使ってくるじゃないか!」 土肥が慌てたように、如月を見る。 如月はスポーツドリンクをひとくち口に含むと、何でもないように言った。 「別にエースでもナンバー2でも、火村くんが“蹴散らして”くれるよ。キックベースだけに」 笑えない。 如月は火村の肩をポンッと叩くと、可愛く「ねっ」と笑った。 普通は男が笑っても可愛くないが、如月だと可愛く見えるから不思議だ。 なんか、小動物っぽい感じ。 思わず微笑んでしまいそうになる。 でも、今は笑えない。 「速水…。エースだってさ」 火村は震えながら、速水の方を向いた。 「なに?ビビり?」 軽くストレッチをしながら、速水は言った。 違う。 ビビってなどない。 むしろ…。 「燃えてきた!」 「それは良かった」 速水は静かに笑った。 試合前だからだろうか、速水がいつも以上に冷静に見える。 対して、火村は熱く燃えていた。 如月はその様子を見て、うんうんと頷いている。
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