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春雨のピッチャーのチェンジアップは回転数が多い。
速い球だと思って構えていると、バウンドの過程でかなりスピードが落ちる。
それで空振りしたり、詰まったりするのだ。
それに火村たちはやられた。
とにかく、青陵高校は負けた。
試合が終わった後の、帰りのバスは静かだった。
バスの通路に置かれた火村の自転車が、揺れで倒れる音だけが聞こえた。
☆
「えっと…。負けちゃったわけだけど、明日からも練習頑張ろう!」
校門前での如月の言葉に、誰も返事をしなかった。
解散前の静かな挨拶を済ませ、皆それぞれ暗い顔で帰路を歩いて行った。
試合前はあんなに和やかなムードだったのに、やはり負けると堪えるらしい。
火村と速水は、帰らなかった。
如月に許可を取り、グラウンドを借りた。
本当は早く帰って身体を休めた方が良いのだろうが、2人はこのまま帰る事ができなかった。
相手が悪かった。
そんなのは言い訳にしかならない。
負けは負け。
それが分かっているからこそ、2人は大人しく帰るができなかったのだ。
身体を動かして、悔しい気持ちを全部出し切って、また明日から頑張る。
そういうのも、有りなのかもしれない。
グラウンド内に、火村と速水の投げ合うボールの音が響いた。
「そんなにキックベースって面白い?」
いきなり声を掛けられた。
振り向くと、そこには奈央が。
「うるさいな。つか、お前今日、試合中いたか?」
「いたよ!退屈でしょうがなかったけど」
奈央はゆっくりと速水に近付く。
速水がキャッチボールをする手を止めた。
「速水くんはヒット出なかったけど、格好良かったよ」
奈央が速水の背中から抱き付く。
速水は慌てたように、抱き付く奈央を降り払った。
「それに比べて火村。あんたはヒットこそ打ったけど、どうもパッとしないね。やっぱり顔か…?」
やれやれといったように、奈央は肩をすくめた。
火村はその言葉にカチンときた。
「顔は関係無いだろ!ちくしょー、速水!お前、格好良くてムカツクんだよ!」
「お前、自分で顔は関係無いとか言っておいて、格好良いからムカツク……って、意味分かんねえぞ」
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