負けて得るもの

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速水が哀れむような目で、火村を見た。 火村は「見るな!そんな目で俺を見るな!」と騒ぎ、より一層哀れみの目で見られていた。 「負けたの、そんなに悔しいんだ?」 奈央が、いきなり真面目な話。 騒いでいた火村も真面目な顔になった。 「そりゃ、悔しいよ」 だから残って練習をしているのだから。 「俺なんか、出塁したのフォアボール1つだけだったからな」 速水も自嘲気味に笑った。 奈央は「ふ~ん」と、分かったのか分からないのか微妙な返事をした。 「私には分かんないなぁ…。“負けて悔しい”ってのが」 奈央が速水の手からボールを取り上げ、足で右へ左へ蹴り始めた。 その様子を、火村は黙って見つめる。 「分かんない……って、何で?」 速水が聞いた。 奈央はどこで練習したのか、なかなか上手いリフティングをスカートのまま始めた。 「そういう経験がないから…?」 リフティングの回数が、10回を越える。 「から?って聞かれてもなあ。なんか一回くらい無いの?」 「無いなあ」 リフティングの回数が、20回を越えた。 火村は素直に凄いと思った。 「多分、あんたたちは、真剣にやってるから悔しいんだろうね。私は何かを真剣にやった事無いから…」 「真剣にやってみよう、って思わないの?」 リフティングの回数が、30回を迎えた。 さらに続く。 「思うよ。最初だけ。でも、途中でどうでもよくなっちゃうんだよね」 「分かんない」 奈央のリフティングに見入っていた火村が、やっと口を開いた。 分かんない。 奈央はその言葉に、首をかしげる。 でも、リフティングは止まらなかった。 ついに、40回を突破していた。 「その、“どうでもよくなる”ってのが分かんない。お前がやってきた事って、本当に好きな事?」 「へ?」 奈央のリフティングが、48回目で止まった。 奈央の頭に、ボール落ちる。 「俺たちはキックベースが好きだ。だから、真剣にやるし、負けると悔しい。お前が真剣にならなかったり、悔しい!って思わないのは、きっとそれは好きな事じゃねえんだよ」 火村が珍しくまともな事を言った。 速水も「同感…」と、奈央からボールを返してもらった。 「さいですか」 奈央はつまらなさそうな顔をして、火村たちのキャッチボールを眺める。
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