7人が本棚に入れています
本棚に追加
速水が哀れむような目で、火村を見た。
火村は「見るな!そんな目で俺を見るな!」と騒ぎ、より一層哀れみの目で見られていた。
「負けたの、そんなに悔しいんだ?」
奈央が、いきなり真面目な話。
騒いでいた火村も真面目な顔になった。
「そりゃ、悔しいよ」
だから残って練習をしているのだから。
「俺なんか、出塁したのフォアボール1つだけだったからな」
速水も自嘲気味に笑った。
奈央は「ふ~ん」と、分かったのか分からないのか微妙な返事をした。
「私には分かんないなぁ…。“負けて悔しい”ってのが」
奈央が速水の手からボールを取り上げ、足で右へ左へ蹴り始めた。
その様子を、火村は黙って見つめる。
「分かんない……って、何で?」
速水が聞いた。
奈央はどこで練習したのか、なかなか上手いリフティングをスカートのまま始めた。
「そういう経験がないから…?」
リフティングの回数が、10回を越える。
「から?って聞かれてもなあ。なんか一回くらい無いの?」
「無いなあ」
リフティングの回数が、20回を越えた。
火村は素直に凄いと思った。
「多分、あんたたちは、真剣にやってるから悔しいんだろうね。私は何かを真剣にやった事無いから…」
「真剣にやってみよう、って思わないの?」
リフティングの回数が、30回を迎えた。
さらに続く。
「思うよ。最初だけ。でも、途中でどうでもよくなっちゃうんだよね」
「分かんない」
奈央のリフティングに見入っていた火村が、やっと口を開いた。
分かんない。
奈央はその言葉に、首をかしげる。
でも、リフティングは止まらなかった。
ついに、40回を突破していた。
「その、“どうでもよくなる”ってのが分かんない。お前がやってきた事って、本当に好きな事?」
「へ?」
奈央のリフティングが、48回目で止まった。
奈央の頭に、ボール落ちる。
「俺たちはキックベースが好きだ。だから、真剣にやるし、負けると悔しい。お前が真剣にならなかったり、悔しい!って思わないのは、きっとそれは好きな事じゃねえんだよ」
火村が珍しくまともな事を言った。
速水も「同感…」と、奈央からボールを返してもらった。
「さいですか」
奈央はつまらなさそうな顔をして、火村たちのキャッチボールを眺める。
最初のコメントを投稿しよう!