負けて得るもの

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密かに火村は、いない方に賭けていた。 相手がいないので、賭けも何もないが。 次第にグラウンドが見えてくる。 バシィィィンッ! 勢いのある、大きな音がした。 グラウンドには、何人かの人影が…。 「あ…」 その人影を見て、火村は思わず声が漏れた。 「火村くん、遅い!」 如月だ。 「速水。ボール取って」 天野も。 相変わらず眠そうに話す。 他にも練習に参加していた。 というより、全員練習に参加していた。 火村は少し驚いた。 負け試合だったにもかかわらず、それを感じさせない程の活気で練習をしている。 「あら~…」 「おぉ、皆来てるな。な、火村」 「お、おぉ?」 火村は何か興味深いものを見つけたように、グラウンドの向こう側を見た。 そこには、茶髪のジャージ姿の女子生徒。 「御堂の奴、どうした…?」 奈央がマネージャーとしての仕事をしている姿を見て、火村は相当驚いたらしい。 昔の漫画のような跳び上がり方を見せてくれた。 「おいおい御堂くん、どうしたんだい?熱でもあるのかい?」 火村が奈央に近付いた。 奈央は何の攻撃か、スポーツドリンクのペットボトルを火村の頬に押しつけた。 「ひやっ!?冷てぇ!」 睨み付ける火村を見て、奈央は笑う。 「うらっ!さっさと着替えて練習しろよ!」 奈央のそんな姿に、速水も呆然とする。 「如月先輩。何スか、あれ?」 「ん?何かね、今日の昼休みにいきなりウチのクラスに来たんだよ。土肥を呼び出して、マネージャーの仕事教えてくれ、ってね」 昨日の事だろうか。 マネージャーの仕事の話をしていたから。 真剣にやっているかどうかは分からないが、見る限りは楽しくやっているようだ。 「さあ、速水くん。着替えて着替えて。夏へ向けての戦いは、もう始まってるよ!火村くんも~!!」 如月は速水の背中を押し、遠くにいる火村も呼び寄せた。 負けた事によって落ち込むのではなく、皆燃えていた。 悔しさをバネに、次に向けて跳ね上がろうとしていた。 次は勝つ。 今、皆の思いはひとつになっていた。
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