入部テスト

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「へぇ。得意分野が打撃と言うだけの事はあるな」 火村が戻ってくると、すれ違いざまに速水がバットを受け取りながらそう言った。 「まあな。お前も打撃頑張れよ!」 火村は何気なくそう言う。 速水は意外そうな顔をし、 「打撃は苦手なんだよな…」 とつぶやきながら打席に向かった。 速水は自分で言った通り打撃は苦手なようで、空振り、ゴロ、ファールの繰り返し。 ヒットは、たったの2本だけだった。 「ご苦労さん。じゃ、合格者を発表する」 火村たちは入部テストが始まる前と同じように並び、前では監督が記録用紙を持って喋っている。 皆、緊張の面持ちで発表を聞いていた。 「……橋本、田中…以上だ」 「えっ…?」 「何っ…!?」 火村と速水の口から、同時に驚きの声が漏れる。 呼ばれなかった。 そう。2人は呼ばれなかったのだ。 火村は間髪いれず、監督に異議を申し立てた。 「待ってくれよ!俺の打撃見ただろ!?俺が一番飛ばしてたじゃんか!」 それを見て、速水も前に出た。 「監督。俺も異議ありです。自分で言うのもなんですが、俺の守備の腕は良い方だと思うんですが?」 「火村…だったか?打撃は見事だったな。だが、お前は自分の守備が、この学校で通用すると思うのか?」 「…………っ!」 監督に弱点を指摘され、火村は黙った。 続いて監督は速水を見て、 「速水も、確かに守備は見事なものだった。だが、打撃はどうだ?自分で自信が持てるか?」 「チッ…」 速水は視線をそらす。 「つまりはそういう事だ。ウチの野球は総合力。打って、走って、守れる…、バランスのとれた野球だ」 火村は言い返す言葉が見つからない。 その間にも、監督は話を続ける。 「例えば、エースで4番。大いに結構。 同じホームランを打てるなら、飛距離なんて関係無い。 極端な話をしよう。 片や150mを越える打球を放て、守備が苦手な選手。 片や150mとまでいかなくともホームランを打て、ピッチャーとしても活躍できる選手。 さあ、どっちが良い? 満塁の場面、いくら飛距離が伸びたからといって、状況が同じなら入る得点は同じだぞ?」 速水も悔しそうな顔を隠し切れていない。 スパイクで地面を蹴っていた。 監督は最後に一言、 「野球は総合力だ。お前たちは必要ない」 そう言った。
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