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 ・・・クリスマス・プレゼント、何が欲しい?  僕が問いかけたら、彼女は、こう言った。  ・・・あなたの。時計をください。  小さくかすれた、囁くような声だったから、時計(トケイ)が時間(トキ)に聞こえたりして。    僕達二人が恋人になって初めてのクリスマスの、あれは確かイヴ・イヴのこと。 「時計?」 「そ」  あまり表情を崩さない。ひそやかな微笑。 「腕時計が、欲しいの。でも間違っても、新しいのなんて買わないでね。私は、あなたの腕時計が欲しいの」 「こんなのが、そんなに気にいったの?」  その時僕が着けていた腕時計は、三年ほど前、学生時代にバイト代をかなりつぎ込んで買った少々根の張る代物で、そりゃ自分でも気に入りの物だったけど、ゴツイめのウォータープルーフで、とても女の子の細い腕に似合うものではなかった。 「ん、それじゃなくてもいいんだけど。・・・あのね。あなたの使い古しの腕時計なら何でもいいの。そんなにいい物じゃなくてもいいし、流行遅れのでもいい。壊れて動かないのでもいい。私達が出会う前、私が知らなかった頃のあなたの時間を、あなたの手元で刻んだ腕時計が、欲しいの」 「ふーん」  素っ気なく相槌を打つ振りをしながら、僕は、実は、この彼女のセリフに感動していたのだ。
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