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父が亡くなり、母は精神的にまいってしまった。食事もろくに喉を通らず、不眠症にまでなってしまっていた。それは当然、お腹の中に居る妹にも良くない事だった。
俺では頼りにならない事は重々承知の上だったが、毎晩母の手を握って励ました。妹が産まれてくる事は、俺でさえ楽しみにしていたから。当然、亡くなった父も。
「お母さん、もう駄目かも」
こう呟く母の手を握り、大丈夫だよと、なんの根拠も無しに言い続けた。
程無くして、なんとか妹は無事に産まれた。母も産まれてきた娘の顔を見て、久々に笑顔を見せた。
「秋、あなたの妹よ。目許がお父さんそっくりね」
「いや、母さんにそっくりだよ。口許が父さんに似てる」
「あら、そうかしら?」
俺の名前、"秋"は、秋に産まれたからだと、父は笑いながら言っていた。なんて単純な名前の付け方なんだと思った。
「母さん、この子の名前は?」
「"彩"(アヤ)よ。自分の彩り、個性を持つ子になれって言う意味なの。父さんが考えたのよ」
ちょっと不公平だと思った。やはり、息子と娘の扱いではこうも違うものか?なんて思ってしまったが、彩の寝顔を見るとどうでもよくなってしまった。
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