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教会の中からは、賛美歌が微かに聞こえてきていた。
クリスマスの今日は、たくさんの人たちが教会に来ていた。
俺は、教会の外の壁にもたれながら明美を待っていた。
考えてみればあの病院で見た男の人と、クリスマスを一緒に過ごすことになっているんじゃないかと直前で気づいたけど、もう迷わないと決めた俺は電話をかけてみた。
すると、その答えは意外なものだった。
すぐにOKがでて、今こうして明美を待っている。
空を見あげてみると薄い雲がかかっていて、月の明かりは薄っすらとしか地上には届いていなかった。
ちらちらと雪が降っていて、一応はホワイトクリスマスと呼べるのかも知れない。
そのときだった。
「ごめん。待った?」
息を切らせながら明美が走ってきた。
少し長めのコートを着ていた。
男物のようにも見えた。
まさかあの男の人の何じゃ。
だけど、俺は頭を振ってその考えを消し去った。
もう、ここまできたら引き返せない。
「それじゃ中に入ろうか」
「うん」
明美は嬉しそうに笑っていた。
そういえば2人でこうして学校以外で会うのは、久しぶりな感じがした。
木の扉をゆっくりと押し開けると、温かな空気と共に賛美歌が聞こえてきた。
扉を閉め終えた頃、壇上で歌を歌っていた義明さんは俺に気づくと、奥の扉の方を手で示した。
俺は一度頭を下げてから、明美と一緒に奥の部屋に向かった。
ピアノの置いてある部屋はさっきの場所とは違って、少し肌寒い気もした。
2階まで吹き抜けになっているために、温まるのが少し遅いのかも知れない。
でも、俺はほとんど寒さなんて感じていなかった。
むしろ体が少し火照っているような気さえした。
「じゃぁここに座って」
俺はピアノの横にある、背もたれのついた椅子に明美を案内した。
「プレゼントって何?」
そういいながら明美は、コートを脱いでたたむと膝の上に置いた。
少し長めの白いスカートに、黒っぽいカーディガンを羽織っていた。
制服以外のその格好を見たのが久しぶりだったせいか、それともあらためて見た明美の姿が大人びて見えたせいか、その姿は凄く綺麗に見えた。
「まぁ、それはあとのお楽しみだよ」
俺はそう言って部屋の明かりを消した。
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