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いまだに晴れない薄い雲のせいで、部屋は薄暗かった。
でも、明美の顔がはっきりと見えないぐらいのほうが、緊張しなくていいかも知れない。
義明さんは演奏をするときは、部屋の明かりを消したほうが言いと強くいっていた。
少し不思議だったけど、俺が下手に緊張しないために言ってくれていたのかも知れない。
俺は、ピアノの前に座ってゆっくりと指を鍵盤の上に置いた。
もう薄暗くてもしっかりと場所はわかる。
まぁ、実際は簡単な曲を教えてもらっただけなんだけど。
それでも、少し自身が持てるほどの練習は重ねてきていた。
「それじゃ始めるね」
俺が言うと、明美が頷くのが見えた。
ゆっくりと弾き始める。
緊張と寒さのせいか指が上手く動かない。
練習では上手くいっていた場所も失敗をしてしまう、そう簡単にはいかないんだな。
そのときだった、光が差し込んできた。
演奏を続けながら光のほうを見てみると、2階にある大きな窓から月の明かりが差し込んでいた。
その光はまるで、スポットライトのようにピアノと俺を包み込んでいた。
そのとき義明さんが明かりを消せと言っていた本当の理由がわかった。
それからはその月明かりが、俺の体の中に入り込んで体をほぐしてくれたように、滑らかに演奏をすることが出来た。
演奏を終えて一度深呼吸をしてから明美の顔を見ると、明美は泣いていた。
やっぱり色々と辛かったんだろう。
俺は少し慌てながら言った。
「病気のこととか色々辛かったんだろ?だけど、大丈夫きっと治るよ。それに、きっとあの人なら明美を大切にしてくれるよ」
俺なんかよりずっとかっこよかったし、凄く優しそうな人だ。
きっとあの人なら明美を大切にしてくれるはずだ。
俺は溢れてきそうな涙を必死でおさえた。
「どういうこと?」
明美は涙を拭って、俺の顔を不思議そうに見ていた。
俺は部屋の明かりをつけて今までのことを話した・・・。
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