クリスマス当日

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「ところでこのピアノの噂知ってる?」 「噂?」 明美は首をかしげていた。 「このピアノの音色を聞けば演奏者の気持ちが伝わるっていう噂」 「そんな噂があるんだ」 「明美は俺の気持ちが伝わった?」 俺の問いかけに、明美は目をつぶって考えていた。 「私のことを大切だと想ってくれてるってことかな」 そう言って少し照れくさそうに、明美は笑っていた。 確かにそれは俺の気持ちだ。 だけど、それじゃまだ足りない。 「俺は、明美のことが好きだ」 言ってしまった。 ずっとずっと言えなかった想い。 その瞬間顔が熱くなるのを感じた。 明美はしばらく驚いた顔をしたまま固まっていた。 そして、 「私も・・・」 そう言って涙を浮かべながら笑っていた。 「本当によかった。ちゃんと自分の気持ちを伝えることが出来て。明美がアメリカに行っても、俺の気持ちは変らないよ。そうだ俺の方からも会いに行くし。距離なんて関係ないよ。離れているって行っても同じ地球なんだから・・・」 俺が必死にそう言っていると、明美は俯いてしまった。 そんなことを言っても実際はやっぱりすごく寂しかった。 アメリカなんて行くなよ。 そう言って止めたかった。 でも、仕事もしてない俺には、そんなことを言う権利なんてなかった。 そんなことを考えていると、明美は顔をあげていった。 すごく気まずそうな顔していた。 「あの・・・、それで多分そのことも武は勘違いしてるんじゃないかな・・・」 「勘違いって?」 「アメリカに行くのは本当よ。だけど、1年ぐらいで帰ってくるって言うか・・・」 1年? だけど、おかしい。 この話はちゃんと聞いたはずだ。 いつ帰ってくるって聞いたら、ずっといるかも知れないみたいなことを言っていた。 「だけど――」 「ごめんなさい。本当は初めから知ってたの。だけど、その・・・、武はいつまでもはっきりとしないから本音が聞きたくて・・・」 まったく、結局俺は健太にも明美にもはめられていたって訳か。 だけど、怒る気はまるでなかった。 だって、俺はそのおかげでこうして素直になれたんだから。
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