噂の教会

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でも、 「何かな?」 そう言って優しく笑う神父さんの顔を見ていると、なぜだか素直に話してみようと言う気になった。 「実は不思議なピアノがあると聞いたんです。自分の想いを人に伝えるピアノがあるって・・・」 笑われるのを覚悟していたのに、 「ああ、そのピアノならこっちだよ」 そう言って左側についていたドアに向かって歩き出した。 本当にあるのか?まさかそんな。 俺が混乱していると、 「着いてこないのかい?」 俺はもう考えるのをやめて、 「行きます」 あとをついていくことにした。 ドアを開けて通路を歩いていくとまた木のドアがあった。 そのドアの中に入ると、中心にピアノが置かれていた。 この場所は2階部分まで吹き抜けになっていて、2階の大きなガラスから赤い光が差し込んでいた。 少し埃はかぶっていたけど、微かに差し込む夕日に照らされたピアノは何だか荘厳な印象を受けた。 「そのピアノだよ」 そう言うとおじいさんは、壁についている紐を引っ張っていた。 どうやらその紐は2階の大きな窓にカーテンを閉めるためのものだったらしい。 辺りはほとんど真っ暗になってしまった。 「すまない。その右手辺りにスイッチがあるだろ。つけてくれるかな」 そう言われて見てみるとスイッチがあった。 俺はスイッチを入れた。 すると、天井についている明かりがついた。 「でも、最近使ってないからね。調律はあってるのかな」 おじいさんはピアノの前に座って、軽く演奏を始めた。 協会のミサなんかで弾く曲なのかも知れない。 「一応大丈夫そうだね。君も弾くかね?」 俺はすぐに首を振った。 「いえ、俺は演奏なんて出来ないんです」 そのとき自分の愚かさに嫌気がさした。 考えてみればピアノなんて弾いたことがない。 いくら焦っているからってそんなことにも気づかないなんて。 俺が勝手に落ち込んでいると、 「どうしたんでね?話だけでも聞かせてくれないかな?」 おじいさんはまた優しく笑った。 その笑顔には、人の心を溶かす作用があるのかも知れない。 俺は近くにあった椅子に腰掛けて、話をし始めていた・・・。
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