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「義明さんは、何で神父さんになろうと思ったんですか?」
紅茶を運んできてくれたあの神父さんに、俺は聞いた。
俺は、今日もまた教会に来てピアノを教わっていた。
と言うより、初めてこの場所に来て以来もうかれこれ2週間ぐらい、ずっと練習のためにここに通っていた。
その練習の合間に、俺たちはいろいろな話をしていた。
神父さんの名前、野口義明って言うのもそのときに聞いていた。
義明さんはなぜか、しばらく俺の質問には答えてくれなかった。
だから、俺が紅茶に口をつけると、義明さんは頭をかきながら少し恥ずかしそうに言った。
「実は想いを寄せていた人が、教会で働いていたんだ」
恥ずかしそうに笑っている義明さんを見て、俺は言った。
「へぇ、素敵じゃないですか」
ただ一つ気になることがあった。
今この教会には義明さんしかいない。
休みの日に手伝いに来る大学生が何人かいるぐらいで、基本的には1人だけだった。
と言うことは・・・、
「3年ほど前に病気でなくなってしまったんだよ」
顔は笑っていたけど、すごく悲しそうに見えた。
ちょっとまずいこと聞いちゃったかな。
そう思って何も言わずに紅茶を飲んでいると、義明さんは静かに喋り始めた。
「正直に言えばもう少し長生きして欲しかった。それでもここで一緒に過ごした時間はかけがえのないものだった。それに何よりあんなに素敵な人と出会えたことを、私は心から神様に感謝しているよ」
また義孝さんは恥ずかしそうに笑った・・・。
教会から帰るころにはもうあたりは暗くなっていた。
街へと続く並木道を歩いているとき、ふとあることに気づいた。
あれだけ聞く時間はたくさんあったのに、噂の真相を聞くのを忘れていた。
まぁ、でも教会のピアノの演奏をプレゼントなんて、洒落てるしいいか。
俺は、綺麗な夜空を見上げて気合を入れた。
「どうにかクリスマスには間に合わせるぞ」
その独り言は白くなって消えて行った。
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