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壱
不機嫌そうなリポーターが、重たくニュースを告げる。
『また、不可解な事件が発生しました。近所の住人の話によると…』
興味無さげにチャンネルを変えていると、怒鳴り声が飛んできた。
「ひじついて食うなっ!!」
ひじをついたまま食事をとっていたひとみは、これまた不機嫌そうな顔になる。
「ほおづえだよ、ばーか」
小声で料理中の父に反抗する。
聞こえようものなら、また家具を買い替えることになるだろう。
何度父・芳人との喧嘩で血が飛び交い、家具を破損し、警察が辺りを囲んだことか。
近所ではかなり有名な気がする。
ひとみの家庭は、ひとみが小さいときから母がいなかった。
その事情は知らないが、喧嘩っ早い父のことだから勢い余って母を殺してしまったのではないかと小さい頃は心配し、今でもたまに思っていた。
保育園、小学校、中学校と片親だけだということで特に偏見もいじめも無くひとみは父だけの家庭環境にも特に不満を持つことは無かった。
ただお互い気が人一倍強いため、何度も些細なことで衝突した。
一番最近は先週で、お風呂にバスタオルが無いことでぐだぐだ言われたためひとみは父をベランダに閉め出した。
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