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「着いたぞ」
貴方の一言で、ボーッとしていた意識が、ハッと目覚めた。
目の前には、確かに駅がある。
とりあえず助手席に座ったまま、後部座席からゴソゴソと、泊まり道具の入ったバッグを手に取った。
それを膝の上に置いて、ドアを開けようとした手を…止めた。
「どうした?」
「………」
私は何も言わずに、ただ首を左右に振った。
「何や?言わんと分からんやろうが」
そんな貴方の一言に、私は声が震えそうになるのを、必死で堪えながら言った。
「今まで…ありがとう。
本当に楽しかった…」
それだけ言って、私はドアを開けて車を降りた。
駅に向かって少し歩いてから、貴方の方を振り返った。
“貴方は視力悪いから、この距離なら見えないでしょ…?”
私の視界は、既に涙で滲んでいた。
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