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相変わらず見つめてくる目の視線は、僕を離すことを許さない。まるで、魔法にでもかかったようだった。僕は、女の子の質問に答えた。
「そうかな。夜は凍えるような寒さだし、食事だって、美味しくても中身が少ないし、それに…」
「それに?」
女の子は、まばたきもせずに僕に聞き返してきた。
「それに…裕福じゃない」
「裕福じゃなくても、あなたは満足してるんじゃない?それくらいしか不満がないのなら」
僕は、女の子の目の呪縛から逃れられないまま、下の唇を軽く噛んだ。
「素敵な家なのね」
なぜか、目の前がぼやけた。僕の家は、一度も誉められたことはない。逆に、何度か市役所から立ち退きしろと警告されたこともある。それでも、僕らはバラバラになることはなかった。金銭的には厳しいが、心が暖かいまま暮らしている。それを、彼女は、分かってくれている。
と、突然大きな鐘の音が町全体から聞こえ始めた。僕は、女の子の目から目線をはずして、鐘の鳴るほうを向いた。学校の授業が始まる音だ。
再び女の子のほうに振り返ったが、女の子の姿はなかった。僕の目をぼやけさせていた水滴が雪の上に、ざくっという音と共に落ちた。
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