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今日で何年目だったか。
思えば、二人が同棲を始めてすぐだった。
普通はすぐに気付くはずなのに、全く気付かれない。
驚かすために使う包丁も、今では輝きを失っている。
二人とも純粋で鈍感なせいか、意思の行き違いが多く、結婚してからもよく喧嘩をしていた。
そんな二人にも子供ができ、大きなマンションに引っ越すことになった。
家財道具も全て買い揃えたらしく、このベッドは置いてけぼりだそうだ。
引っ越しの日、準備を終えた二人が、玄関で靴を履いている。
これで他の家に行ける、と思った時、
「いままでありがとう」
と二人が言った。
知っていたのか、とも思ったが、鈍感な二人の事だ。おそらく、この家に向けて言ったのだろう。
誰もいなくなった部屋の中、ベッドの下で考える。
今日で何年目だったか。
-終-
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