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「願い事はある?」
再度問われ、久世は静かに目を伏せた。そして小さく、
「何も」
とだけ呟いた。
その答えに、佐伯の瞳が揺れた。寂しげに彼を見つめ、訊き返す。
「何も?」
「うん。何もない」
サラサラした銀色のモールを手に、久世は俯いて答える。
佐伯は、キュッと唇を結ぶと、
「そうだね。君は何でもできるもの。願い事なんて、必要無いよね」
わざと、そんな憎まれ口を叩いてみせた。
しかし、久世はそれに乗せられる事なく、ゆっくりモールをツリーに絡ませながら、抑揚の無い話し方で言い返す。
「君は、何も知らない」
「……うん。僕は何も知らない。君は、何も見せてはくれないもの」
青白く冴えた月を背に、真剣なまなざしで佐伯は言った。
その視線を、久世は無言で見つめ返す
しばらく沈黙の時が流れた。二人は対峙したまま動かない。
薄雲が月にかかる頃、久世がおもむろに口を開いた。
「君の願いは、何?」
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