59歳 元社長

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睡眠薬で死ぬにも薬がないうえ買いにもいけない。首を吊るにも吊れるロープがない。それ以前にもまだ死にたくはない。いっそこのまま静かに潜んでいるか…。 ジロウは一人で思い詰めていた。 「なぜよりによってわたしのところなのか。他の所でもやっていることではないか。…人間なんてわたし一人でいい!小汚い人間どもになんか負けるかぁ!」 気がつけばジロウは酒を浴びている。右手で持つグラスは、ついではすぐ空になった。そして次第にジロウの気分は勝ち気から弱気へと変わっていく。 「…お前はいいよなぁ…あいつらとは違い、いつも側にいてくれるもんなぁ…。わたしも…お前に…なれ…た…ら…。」 自分の影に話しかけていたジロウは寝てしまった。疲れていたのかいびきが大きい。しかし、運命は休ませずにやってくる。さっきまであったジロウの影は、少しずつジロウから消えていった。
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