59歳 元社長

16/19
前へ
/69ページ
次へ
「しかし…あの時の女性の笑顔は綺麗でした。こんなわたしにお礼をいうなんて。わたしは誰にも見えてないのに…気づかれてもいないのに。」 「あんた、影民だったのかい?」ジロウが頷くと、おじさんはタバコの煙と共に、身を任せるように語り出した。 「わしもなんですわ…昔はがんばっていたのですが…妻に浮気をされ、多額の借金を背負わされ、首を吊ろうとしたら台から落ちて気を失い、影民になっていた。うちの連中も、何か心に傷を負い影民になったんですわ。でもみ~んながんばって今を生きている。影民になって人についてわかったことがあるんですなぁ~。それ、気にせず食べてくだされ。」 ジロウは袋を開けた。中にはお茶といくつかの袋詰めされたおにぎりが入っていた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加