救いの手

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「僕、井締ラレル」 「いじめられてるの?」 「そうじゃなくて、名前なんだ。まあ、いじめられてるけど……」  ラレルは少し震えだした。少女は怪訝な顔をしている。そんな名前の人間がいるのか、疑わしいのだろう。 「本名?」 「本名だよ……。自分でも信じられない」  ラレルは両拳を握りしめていた。うつむいて、涙がこぼれそうだった。 「えと、私は立川殊音っていうの。よろしくね」 「立川さん?」 「コトネで良いよ!」  人なつっこい女の子だな、と思ったが、ラレルは黙っていた。 「なんか、あだ名つけてあげようか? 自分の名前がいやなら」 「あだ名……」  世紀のいじめられっ子である彼は、もちろん醜いあだ名も腐るほど付けられていた。  ウジ虫、アブラギッシュ、キモオタ、ストーカーウンコマン、ヤク中、エロオヤジ、クソミソ腐敗臭、等々。ラレルは、あだ名に良いイメージを持っていなかった。 「いや、ラレルで良いよ……」 「そう? まあ、名前だけなら可愛い名前かもね。言いにくいけど」  ラレルはまた赤くなった。  一方的に話しかけて貰うのも悪い気がする。だが、ラレルから話しかけることはできなかった。
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