帰り道。

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部活が終わり、みんなが帰った後の部室の最終チェックをする。 忘れ物はないかとかゴミが落ちてないかとか…。 いつの間にかなんとなくそんな役回りになってしまった。 苦笑しつつ散らかっている雑誌を片付けると、もう一度部室を見渡してドアを閉め鍵をかけた。 「栄口」 声のするほうを見ると水谷がオレを見上げてふわりと笑った。つられて笑いながら部室棟の階段を降りていく。 「何か忘れた?」 夜の9時過ぎ。街灯の灯りは薄暗い。それでも街灯の真下にいる水谷の顔ははっきり見える。 「違うよ。」 にこやかに水谷が答える。答え終わらぬうちにオレの横に並ぶ。 あぁと、1人で納得する。 「帰ろうか」 クスリと笑って少しだけ背の高い水谷を見上げると、またふわりと笑いかけてくれる。 最近、水谷といる時間が長い。同じクラスの巣山と較べたらそりゃ、巣山のほうが長いけど。 『2人っきり』と言う言葉をつけると水谷といる時間が一番長い。 並んで歩き出してしばらくすると、すっと水谷の手がオレの手を取る。 突然のことでびっくりして、困惑して水谷を見ると 「ダメ?」 と、柔らかく聞かれる。 「…ダメじゃないけど…誰かに見られると恥ずかしいかな…」 水谷はさも今気付いたように あぁ、そうだよねー なんてわざとらしい返事をする。 だけど手を離す気はさらさらないらしく、少しだけ強く握ってくる。 「オレ、栄口とだったら誰かに見られても平気かなー」 また、ふわりと笑いかけられて、そしていつもその笑顔にオレは負けてしまう。 水谷はその笑顔の魔性の程がわかっているのだろうか…。 別れ道、名残惜しそうに指を絡めつつ、オレを見つめる水谷に 「お休み。また明日」 その言葉とともに水谷の頬にキスを一つ落としてやった。 そのまま踵を返して帰ってきたけど、水谷は今何してるんだろうかーーー。 了
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