何事にも在るもの。

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青年の狼狽をよそに、老人は語り続ける。 「いつも、いつも。眺めて、飽きもせずに。」 青年には何の事かは分からない。 「わしはなぁ。決めたんじゃ。これをお前にやろう。」 老人は手を出すように、青年にそくす。 しぶしぶ手を出した青年に、老人は一枚の金貨を震える手で渡した。 「オル。・・・はお前のものじゃ。」 驚く青年の、手のひらの金貨は鈍く光る。 「じぃさん・・何・・」 青年は、聞き取れない言葉と、名前を知っている理由を聞こうとしたが、それは叶わなかった。 ゆっくりと、老人の時は止まり、オルと呼ばれた青年の前で、老人の体はさらさらと砂になる。そして、風に運ばれて茜色の空に散っていったのだ。 まわりが闇にそまるころ、村の大樹のわきには、金貨を握りしめたオルだけが、ただ立ち尽くしていた。
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