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「…んぱい、せんぱ~い。聞いてますかあ?」
うわマズイ、聞いてなかった。
「ん?っと。なんだっけ?」
「だから~、今夜ですよね、流星群っ!」
「あ、ああ。そうだっけ。」
隕石にばっか気をとられてて、すっかり忘れてた…たしか、今夜零時に、隕石と同時に現れるんだっけか。
「だから、あの公園に行きませんか?」
「公園って、中区第三公園か?」
「はい、わたし達が初めてあった公園です」
ののかはまるで「当然返事は決まってますよね」っていう顔でこっちをみると、手を離して少し前を歩き始めた。
早く歩こうと無理して大股で歩く彼女の、歩くたびに揺れる長いネコッ毛に置いてかれないように、俺も少しペースをあげる。
「覚えてますか?初めて会った日のこと」
初めて会った日?たしか春、そう…よく晴れた日だった。
「四月七日月曜日、天気晴れ。桜のさいた春真っ盛りの日でした。」
そうだ、確かに桜が咲いていた。でもなんでこいつ日付まで………
「わたし、日記つけてるんですよ。名付けて、ののかダイアリー」
ののかは上着のポケットからピンクの本のようなものを取り出して、にっこり。
「四月七日、月曜日、天気晴れ。今日公園である人に出会った。入学初日から道に迷うなんてツイてなかったけど、この人に道教えて貰って無事到着!聞けばこの人わたしの先輩みたいだし。初日から上級生に知り合いが出来るなんてラッキー♪」
「な、なんだそれ」
「なにって、日記の内容ですよぉっあの時はまさか先輩とここまで親しくなるとは思ってもみませんでした」
あの時…噴水広場だった。
うちの学校の制服着た女子がすんげー困った顔してこっち見てたんだ。まるで拾って下さいって感じの仔犬みたいに。
あんまりじーっと見つめてくるもんだから、つい手を貸しちゃったんだよなぁ。
公園の入り口から続く桜並木を抜けるとその噴水広場に着く。
あの日とは違う、なんとも寂しい風景。
花びらひとつない桜に囲まれた噴水はもうその役目を終えたのか、今はただ、そこに水をためるだけだ。
ああ……ここもまた、終わるのか。
ののかはこちらに背を向けて、あの日と同じ位置に立ち、まだ ただ一人時を刻む噴水の仕掛け時計を見上げている。
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