0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「午前零時一分前です。先輩はご存知ですか?この時計壊れてまして昼でも夜でも鳴るんですよ。かわいいお人形さんが出てきて、曲にあわせて踊るんです」
「知ってる。たしか近いうちに修理されるはずだった。まあ結局中止になっちゃったけど…」
「けど…ラッキーです」
「え?」
♪♪~~
突然時計からゆったりとしたワルツが、人形が、流れ、動き出す。
ののかは演奏が始まるとゆったりした動作で振り返り、スカートの両端を指で摘むと、少し気取った口調で
「Shall we dance?」
一瞬思考が止まりそうになった。けどすぐに復活。だって答えはもう決まっていたから…
「Yes,let’s」
俺達は踊り始める。
作法なんて知らない。
ステップなんてでたらめ。
でもそんなこと、関係なかった。
今はただ踊り続ける、世界の終演へと上り詰める最後のカデンツァを…
「ーーーッ!」
一瞬、ののかの顔が悲しげに歪んだように見え、そして抱き着いてきた。
……震えてる。
服ごしに僅かに、でもはっきり伝わってくる。彼女の気持ち。
泣くまいって、泣き顔は見せないって、最後まで笑顔でって気持ち。
「……寒いのか?」
「ちがいますよぉ…せんぱいの…ばかぁ」
俺はののかの小さな背中に手をまわすと強く、強く抱きしめる。
「さいごは、さいごまで、ぎゅってしてて…ください…」
空を見上げれば流れ星のシャワー。
ああ…今夜は本当に空が明るい。
流れ星達はまるで
きみの流す涙のよう…
END
最初のコメントを投稿しよう!