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野党達は俺達を連れ、ついでに奪った馬三頭を連れて、草が萌える丘を進む。
「さっきの場所がアジトじゃないのか?」
「あそこもアジトだけどな、何箇所もあるからよ。やっぱ拠点は一つ」
片目が濁った男が言うと、ヘルムを被った寸胴で足の短い男が、見た目とは裏腹に高い声で続けた。
「それに、騎士の死体があるんじゃ、怪しまれるしねえ」
更にブチが続ける。
「あそこはしばらく使えねえ」
……そうか。確かに捕まりたくはないだろうし、みすみす手掛かりを残す場所に戻ったりはしないよな。
死体の放置された洞穴のある岩場へ視線を戻そうとすると、リリシアが馬を引いている禿げ上がった頭で小柄の男性と話をしていた。
自分の置かれた立場を理解していないのだろうか。
それともリリシアは俺よりも勇気があるのか。
……兄として自信なくすなぁ。
「そのお馬さんは、どうするんです? まさか食べてしまうのですか?」
そうそう、きっと切り身にして美味しく……えっ?
「た、食べっ? 食べねえよ!」
禿げ頭が驚いたように言う。
リリシアはどういう発想をしているのだろう……。
「売るんだ。このご時世、馬は貴重だからな。高く売れるんだよ」
禿げ頭の言葉にリリシアは人差し指を顎に当て、首を傾げて言った。
「売るよりも、野党さん達が使ったほうが宜しいのでは? 逃げる時も走るより早くて逃げやすいでしょうしー……」
何故、野党に知識を与えようとしているのだ、妹よ。
「自分達の馬はもういるから、心配すんな」
笑って言うハゲ。
心配なんてしたくもないし、既に手を打たれていることに何故か悔しさが込み上げた。
「ならば良いのです」
満面の笑みで言うリリシアの所に歩いて行き、禿げ頭に愛想笑いをして引き離す俺。
「なんで野党に優しくするんだよっ。俺達殺されるかも知れないんだぞっ?」
声を潜めて言うと、リリシアは俺を怒ったように見据えてきた。
な、なんだよ……。
「例えどのような立場でも……」
「でも?」
「命を……助けていただきました」
「それは……」
「悪い人には、見えないですよ……」
「…………」
それは解る。解るが……人を、殺したんだぞ……。
俺はそう簡単に……信用、できない。
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