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「んな訳ねえだろ」
肩を竦めて言うと、男はあっさりと騎士の鎧の繋ぎめである肩に剣を突き立てた。
苦鳴をあげる騎士。
慌ててリリシアに見せないように、俺は覆いかぶさるようにリリシアを抱いた。
「王族が騎士に追われてるわけがないだろうが」
背中が濡れた。
生暖かい。これは……血、なの、か……?
「金目のもんはー、と」
ドサッ、と何か落ちる音。
罠を外したのか……つまり、俺の背後には死体、が……あるはず……。
「ほら、大人しくしろ」
暴れる馬のいななきが、遠く聞こえる。
「……兄様?」
心配したように声をかけてくるリリシア。
「…………」
俺は、恐る恐る……後ろを見た。
「ひ……っ」
死体が、生気のない目が、俺を見ていた。
「い、痛いよ……兄様……っ」
「あ……」
思わずリリシアを強く抱きしめてしまっていたようだ。
「わ、悪い……」
リリシアには……見せられない。
あんな……死んだ人間は、あんな……あんな目を、するのか……っ。
「なんだ、坊主。お前、人死には見たことねえのか?」
「あ、当たり前だろ!」
声が震えていた上に裏返っていた。
駄目だ。もっと、もっと冷静でいなくちゃ……リリシアが、リリシアを不安にしちゃ駄目だ。
「へえ、珍しいな。自分の街で貴族に目の前で殺される奴とか、いなかったのか?」
「は、は……?」
「……なんだ、本当に世間知らずなのか? 兵士や騎士に殺される奴は?」
俺は、首を横に振って、そのまま言った。
「わ、悪い事をしたから……罰せられたんだろ」
その言葉に反応したのは、今まで会話してた男じゃなく、ブチと呼ばれた太った男性だった。
「なーに言ってんだ。オラのおっかあは、道を通るのに邪魔だってんで、貴族の馬に蹴り殺されただよ」
「な……っ?」
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