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訪れた現実感。
翔哉は、顔に当たる冷たい感覚に眉を潜めた。
目の前には、固くツルツルした白スーツ。
………いや、正確にはスーツではない。
スーツを象ったもの。
「………ただいま。」
見上げれば、白髭のおじいちゃんがクロブチ眼鏡をかけて微笑んでいる。
古書堂の店先。
買い込んだチキンの店のマスコットたるおじいさんに、翔哉はへばりついていた。
腕には赤い手袋を抱え。
そして背後では。
「お?……なんか、いいにおいすんな。」
砂利の散らばる路地に座り込んだ奈桜が、古書堂から漂う食欲をそそるニオイに鼻をひくつかせる。
電話の連絡で霧生が料理を温めなおしたか。
あたりには、香ばしい匂いがふんわりと漂っていた。
そこへ、店の中からカラコロと下駄を鳴らす音。
引き戸越しにぼんやりとしたシルエットが浮かんだかと思うと……
「おかえりなさい皆さん。パーティー準備は万端ですよ。」
本来なかなか道を開けてはくれぬ引き戸がスルリと開き、中から霧生が顔を出した。
開いた扉の隙間から、一層食欲をそそる香が暖気とともに流れ出る。
「よっしゃチキンんんん!!」
「俺もう腹ぺこ。まさかサンタがあんなしんどいとは思わなかった……」
空もすっかり暗くなった頃合い。
宴をはじめるには調度良い。
二人は寒さに身を縮めながら古書堂の入口をくぐり……
「あれ?伊藤さんはどこですか?」
店主の言葉に歩みを止める。
………いれば必ずけたたましいエセウサギ。
確かに、共に渦の中へ飛び込んだ覚えはある。
その時。店先のオブジェの一つ、巨大な抹茶ソフトがうごめいた。
クリスマスのイルミネーションよろしく、明かりのついたソフトクリームがしばし揺れ動き……
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