古書堂のサンタクロース

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揃いの真っ赤な手袋と靴下。 それは、ティナからの感謝の証。 伊藤さんと奈桜も、さすがにその事実に……しばし押し黙る。 「あの馬鹿。なんで直接渡さねぇかな……。」 「恥ずかしかったんやろ。 あっちの世界のモンは本来持ち込まれへんのや。それが形を残して届いとる……。 それが、ティナはんの感謝の「強さ」や。」 伊藤さんの言葉に、二人は揃ってため息ついて苦笑いを浮かべる。 イメージ力が形造る本の世界の物品は、本来現実世界に持ち込めない。 だが、そこにつまる思いが強いとき……「あちらの世界」の存在が、「こちらの世界」へ形を遺す。 翔哉に付き従う赤い竜がその例だ。 彼は、翔哉達と共にいたいがためにこちらの世界にまでついてきて……その姿を留めた。 それと同じように。 この手袋と靴下もまた……ティナの強い感謝の証。 「来年は上手くやるといいな。」 「せやな。」 「さぁー料理が温まりましたよぉ☆ あれ?なんかシンミリですか?どうかしましたか?」 事情を知らぬ店主だけが、一人テンションをあげている。 煙突も無い暖炉も無い。 そんな現代で、サンタクロースは今も在る。 試行錯誤をしながらも。 子供達へ夢を届けるために。 「なんでもあらへん!さぁ!今日は飲むでぇぇぇ!!」 「アルコールはありませんよ。」 「んなっっっ!!」 静かにふけゆくイブの夜。 古書堂には、柔らかい明かりと賑やかな声がこだまする。 その空に。 静かに響く鈴の音色。 ホォ――――ゥ ホォ―――――ウ ホゥ。 メリークリスマス!!! ##########
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