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(でも、一つわからない。あなたの行為は、愛情が生んだものなのか、それとも、旅の目的がそうさせたのか…)
紫の流るる雲の限りなく、空を食らう山々は威風堂々、旅の一行をも飲み込もうと、黒々とした尾根を横たえる。
(愛してはいけないのかな)
アシュリィがミカエルと感動の再会を果たしたらしく、歓喜の声を上げた。
(あぁ、そうか)
アシュリィと共にミカエルを探していた赤い鎧の剣士やビィにそれを伝えるべく、彼は岩場を飛び回る。
(そもそも、そういう旅なんだ…)
ジルが「今日の夕飯か」と気炎を上げると、アシュリィがミカエルを両手に包み込んで赤い鎧の剣士の後ろに隠れる。
(愛してしまったら、いなくなった時に、悲しいから…)
不意に、死別した戦士達の顔が浮かんだ。そして、ビィの比類なき優しさが心に染み込んできた。
救いたいから、愛しているから、憎んでほしい。彼はそう望んでいる。ならば、憎むことで、彼を愛そう。救おう。
アシュリィ達と戯れるビィの姿を急に愛しく感じて、セシリアは胸が締め付けられる痛みに眉をひそめて耐えた。
(でも、確かに、つながってる)
この盟約は、二人だけの秘密だ。そこから生まれる、セシリアを残酷な優越感へといざなう理解不可能な甘い感情は、しかし、彼女には心地良い。その感情を理解し受け入れるには、セシリアはあまりにも幼かった。
先に進んでいた白髪の魔法遣いが、仲間を呼んだ。もう、夕闇が忍び足ですぐそこまで迫っていた。少し肌寒い大陸の風に吹かれて、旅の仲間が歩き出す。アシュリィの鼻歌が聞こえる。慣れた岩場を踏みしめながら、セシリアは背後にビィの息遣いを感じた。
―了―
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