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「次の街まであとどれくらい?あ!アシュリィ、その肉は俺のだぞ!」 「順調に行けば、二日くらいで着くじゃろうな」 「そっか。おい、アッシュ、それも!」 「ジル、僕はもういい。これやるよ」 「おっ、そりゃありがたい。エルフは内臓がお嫌いか?」 「おい、バド!それはセシルのためにとっといたんだぞ!」 「お前が俺の分まで食っちまったんだろ!」 「それより、この形の悪い鍋はどうにかならないのか?バド」  エルフが微笑みながら二人の争いを止めに入る。エルフは少食で、いつも一番先に食事を終えた。白髪の魔法遣いが選んだ今日の寝床は、山の中腹にある岩場だった。 「それは、俺の栄誉の証だよ。オークの頭にクリティカルヒットを連発し、いくつもの死線をくぐり抜けた俺の愛剣…いや、愛ナベ、かな?」  夕食の焚き火にさらされ、まだ野菜や兎肉の残骸を乗せる戦友をアシュリィは誇らしげに眺めた。この鍋はアシュリィの戦闘経験値が上がるほど丸い平面の中央がいびつに盛り上がって、いつの間にか肉を焼くのに最適な鋳型を形成していた。肉汁が盛り上がった部分から周りの溝に垂れ下がって、そこで野菜を炒めると格別に美味しい、とアシュリィは偶然の連続が生んだ産物に感嘆の声を上げる。 「俺の、食を追求する志がこいつにも伝わったんだな。うん、きっと、そうだ」 「なんだ、鍛冶なら任せろよ。芸術的に仕上げてやるぜ」  鍛冶師のジルがパイプをふかしながら提案すると、アシュリィはやんわりと断った。 セシリアは小さな焚き火に赤々と照らされた仲間達の顔を、少し離れた所から眺めていた。夜風が岩間を通り抜ける感覚が心地良い。
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