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「神谷朱李さん。お話があります。」
いつものように沙希と帰ろうと玄関を出た私は、一人の男子に声をかけられた。
「あ💡私さきに帰っとくね~。それじゃぁ~。」
何かを察した沙希は、逃げるようにその場を去った。
その男子が促すままに、ためらいながら私は数歩後ろをついて歩いた。
男子には見覚えがあった。
オレンジ色のグランドを走っている人だ。
いつも黙々と走る姿が、目の前の背中と重なって見えた。
急にその人は立ち止まった。そして、向きを変えて私を見た。いつの間にか校舎の陰に来ていた。
「急にごめん。どうしても今のタイミングが良かったから。」
その人、名前は黒沢悠太といった。
「俺、陸上部で長距離走ってるんだ。」
まさか知ってるとは言えずに黙っていた。
「今度、大会があるんだけど、10000メートルに出るんだ。」
私が答えに困っていると、黒沢悠太は私の気持ちに気付いてか、話を続ける。
「最近、自己新だして。調子いいんだ。」
「……」
「いや、つまり、…いつも窓からグランド見てるよね。それで…。」
黒沢悠太の話はなかなか前に進まなかった。
彼なりに緊張していたんだと思う。
彼の話をまとめると、こういうコトみたいだ。
私が毎日グランドを見ているのをあまり良く思っていなかった。
陸上部に好きな人でもいるのだろうと思っていた。
日がたつにつれて、今日も見ているかな、と気になり始めた。
窓から私が見ていると思うと、頑張ろうと思った。
窓に私の姿があると安心して走るコトができた。
「気付いたら、いつの間にか好きになってた。急に言われても困ると思うけど、俺と付き合ってください❗」
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