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「いえ…このモールのライバル店の視察なんですけど」
「あ…ですよね…」
流石に参ったのか、困った様な笑いを浮かべている。
あ、仮面が崩れた。
かなり失礼な事を言ったにも関わらず、祥子はそんな事をぼんやりと思った。
「お礼に、お昼も奢りますので」
「…わかりました」
お昼につられた訳ではないのだが、断りにくかったので、承知した。
「じゃあ、行きましょうか」
椎名は、祥子の前を歩き出す。その後ろをゆっくりとついて行く。
ライバル店は、同じく低価格でジュエリーを販売している。
客層も良く似ている。
客足も、うちと同じくらいだろう。
でも、わざわざ視察なんてしなくてもいい気がするけど。
「真面目、ですね」
そう考えたら、思わず声を出していた。
「…そんな事もないですよ。仕事ですから。しかし」
そう言葉を切ると、此方を振り向く。
「珍しいですね。僕に話し掛けるなんて」
その顔が意地悪な笑みを浮かべた。
「…そうですか?」
平然を装ってみたが、内心はドキドキしていた。
えーと、なんでこうなった?
いや、わたしが話し掛けたからなんだが…。
「嫌われてると思ってましたから」
「え」
思わず、椎名を見るが既に前に視線を戻していた。
苦手意識は確かにあるんだが、別に嫌ってはない。うん。
否定しようと思ったが、何だかムキになっている様な気がしてやめた。
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